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業務が原因で病気になったり、業務中にした怪我のことを労災といいますが、建設現場の労災には重大な事故になりやすいこと、元請けの労災保険を利用すること、という特徴があります。
そこで本記事では、建設現場で働く人の労災保険について弁護士が解説します。
労災とは?建設現場の特徴は
まず労災・労災保険とはどのようなものか、建設現場の労災・労災保険の特徴について解説します。
労災とは
労災とは、労働災害を省略したもので、労働者が業務に起因して発生する病気や怪我、および通勤中の怪我のことをいいます。
労災には次の3つの種類があります。
業務上の災害:業務中に怪我をした(例:建設現場で転落して怪我をした)
通勤途中の災害:自宅から会社に通勤途中に怪我をした(例:建設現場に向かう自家用車で事故を起こした)
業務上の疾病:業務が原因で病気になった(例:長時間労働が原因で心疾患を引き起こした)
本記事では業務上の災害について主に取り扱います。
建設現場での労災の特徴
どのような業種でも労災は問題になるのですが、建設現場で発生する労災の特徴として、重大な労災が他の業種よりも多いことが挙げられます。
これは、建設現場では大型の機械を利用することと、高所での作業が要求されることに起因します。
労災保険とは?建設現場の特徴は?
次に労災に被災した場合の労災保険について確認しましょう。
労災保険とは
労災が発生したときに、被災した労働者に支給される各種給付を労災保険(労働者災害補償保険)といいます。
労働者を雇用したときに会社は必ず加入することになっており、保険料は会社が負担をします。
具体的には次のような給付を受けることができます。
療養(補償)給付:傷病の療養に必要な給付(診察・手術・入院・薬などの費用)
休業(補償)給付:傷病の療養のために休業した場合の補償
障害(補償)給付:後遺障害が残った場合の給付
遺族(補償)給付:被災者が死亡した場合に遺族にされる給付
葬祭給付(葬祭料):被災者が死亡した場合の葬祭費用としての給付
傷病(補償)年金:業務上の負傷・疾病が1年6ヶ月を経過しても治らない場合に支給される給付
介護(補償)給付:障害(補償)年金または傷病(補償)年金を受ける場合で障害が重く現に介護を受けている場合の給付
建設現場における労災保険の特徴
建設現場において、労災保険には次のような特徴があります。
現場ごとに労災保険に加入
労災は通常、労働者を雇用した会社ごとに加入します。
しかし、多数の下請会社が関係する建設業では、工事を1つの事業とみなして、元請会社が下請会社の労働者を含めて労災保険に加入します。
そのため、下請会社の労働者が労災に被災した場合に、元請会社に迷惑をかけたくないと考え、あるいは元請会社から指示をされたことによって、労災隠しをすることがあるので注意が必要です。
なお、労災保険は労働者のためのものなので、下請会社の代表者・役員およびいわゆる一人親方については、元請会社の労災にも加入しません。
下請会社の代表者・役員や一人親方については、特別加入制度が用意されているので、そちらに自分で加入します。
重大な労災が多いので様々な給付内容が問題になる
上述したように、建設現場では重大な労災に被災する可能性があります。
ひとたび怪我をすると、長期間にわたって休業しなければならない、怪我がなかなかなおらない、後遺症が残る、亡くなってしまうということも珍しくありません。
そのため、上記の労災保険の給付内容すべてが問題となります。
労災と認定されるための要件
労災と認定されるための要件として「業務遂行性があること」「業務起因性があること」と2つが挙げられます。
業務遂行性があること
怪我や病気が労災と認定されるためには、業務遂行性があることが必要です。
労災保険は、労働関係から発生した災害等に対する補償を行うものです。
そのため、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある場合に認められるのが原則です。
建設現場では、元請会社に雇用されている労働者である場合や、下請会社に雇用されている労働者であれば、業務遂行性があることになります。
業務起因性があること
怪我や病気が労災と認定されるためには、業務起因性があることも必要です。
労災保険は、労働関係から発生した災害等に対する補償をおこなうもので、病気や怪我が業務に起因することが必要です。
建設現場での業務に起因するものであることが必要で、例えば仕事の飲み会で泥酔して店頭して怪我をしたような場合には、業務に起因したものではないので労災に該当しません。
労災に被災した場合に労災保険を受け取る流れ
労災に被災した場合、労災申請をするなどの手続きがあります。
その流れは次の通りです。
労災を報告する
労災があったことを報告します。
自分の上司や雇用主はもちろん、元請会社にも報告をする必要があります。
労災の申請は通常は会社(建設現場の場合は元請会社)が行ってくれますが、ケースによっては自分で行う場合もあり、この場合には会社が事業主証明をする必要があり、協力を求めることになります。
労災申請書を提出する
労災申請書を提出します。
上述したように会社が提出するのが一般的ですが、労働者本人が提出することもあります。
提出は労働基準監督署長に対して行います。
労災の認定がされ保険給付を受ける
労働基準監督署長が調査が行い、労災と認定されると、保険給付を受けることになります。
労災保険の給付では十分ではない
ここまで、建設現場で働く人に労災保険についてお伝えしました。
労働者が病気や怪我になった場合、労災保険から給付を受けることになりますが、その給付では十分ではないことがあります。
会社が労働者に対して負っている安全配慮義務と、その違反に対する損害賠償請求が関係します。
会社は労働者に対して安全配慮義務を負っている
会社は労働者に対して、労働契約法5条で安全配慮義務を負っているとされます。
安全配慮義務とは、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」義務をいいます(労働契約法5条)。
例えば、本来整備をしていないといけない建設用機械について、整備を怠ったため労働者が怪我をしたような場合を想定しましょう。
その生命、身体の安全を確保しつつ労働することできるよう、必要な配慮として、会社は適切な整備を行う必要があるといえます。
これを怠った会社は、労働者に対する安全配慮義務について違反があったといえます。
安全配慮義務違反があり損害を被った場合には会社に損害賠償の請求が可能
労働契約法5条の安全配慮義務違反があり、これによって労働者が損害を被った場合には、会社に対して損害賠償請求をすることが可能です。
請求できる内容としては次のものが挙げられます。
積極損害
現実に支出した費用のことを積極損害といいます。
治療費や入院費、通院に要した交通費などがこれにあたります。
逸失利益
逸失利益とは、労災がなければ将来得られるはずであった、減収分のことをいいます。
被災した労働者に後遺症が残ったときや、亡くなったときに問題となります。
休業損害
休業損害とは、労災によって会社を休業したことに対する補填をいいます。
労災がなければ出勤して、給与を得ることができたわけですから、損害として請求が可能です。
慰謝料
慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償をいいます。
労災によって病気や怪我をしたことによって、精神的苦痛を受けることになります。
これに対して慰謝料の支払いがなされます。
労災保険では十分ではなく会社に対して損害賠償が可能なケースも
例えば労災保険を受け取っても、それは十分な補償ではない可能性があります。
例えば、会社の安全配慮義務違反によって怪我をして、入院をしてその間仕事を休むことになったとしましょう。
労災保険からは、治療費・休業補償給付を受けることができます。
しかし休業補償給付は、待機が3日ある上に、給付基礎日額の80%しか給付されません。
そのため、待機3日分と残り20%、および慰謝料については、労災保険では補償されないことになります。
その分については、ここまでお伝えしたように、会社に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めることができます。
下請会社の労働者は下請会社・元請会社のどちらに損害賠償の請求ができるか
下請会社の労働者は、下請会社・元請会社のどちらに損害賠償の請求ができるのでしょうか。
この点、労働契約法上の安全配慮義務については、雇用主である下請会社に対して請求が可能です。
しかし、安全配慮義務については労働契約法の規定以外にも、判例で「『ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間』において信義則上認められる義務」として認められる場合があります。
元請会社と下請会社の労働者の間には直接の雇用契約はないので、労働契約法上の安全配慮義務違反を問うことはできません。
しかし、判例で認められる信義則上の義務としての安全配慮義務違反があるといえる場合には、下請会社の労働者は元請会社に対しても損害賠償請求が可能です。
労災請求・損害賠償については弁護士に相談・依頼をするのがお勧め
労災請求や損害賠償については弁護士に相談・依頼をすることがお勧めします。
労災や損害賠償で会社と争うことになった場合、労災認定の要件を満たすか、損害賠償が可能かという法的な問題を精査する必要があります。
弁護士は、法的問題について適切なアドバイスをすることができます。
また、実際に損害賠償を求めるような場合には、相手との交渉や裁判などの手続き法的手続きを行う必要があります。
弁護士に依頼すれば、相手との交渉や法的手続きを委任できるので、有利な請求が可能となります。
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